出来心 できごころ
ドジな駆け出しの泥棒Aのお話
ある日、 親分に、
「お前は素質がないから足を洗った方がいい」 と言われるA
心を入れ替えて悪事に励むと誓っ他のだが、
この前も、
「広い庭の家に侵入しろ!」と言われたら、
公園に忍び込んだり、
「気合を入れて泥棒に入ったところが交番だった!」
などと話すので、
親分はあきれて、
「お前にまともな盗みはできねえから、
オレの言う通りにやってみろ!!!」と、
こまごまと技術指導が始まった。
まず、
狙いを定めた家に声をかけて、
返事がなかったら入る。
しかし、
ふいに人が出てきたら 、
「失業しておりまして、
貧しさからの盗みに出てしまった出来心でございます。」
と、泣き落としで謝ってしまう。
仮に、
返事があったら人の家を訪ねるふりをして 、
「○○さんの家はこの辺りですか?」
と、ゴマかせばいい、
と教えられ、
さっそく仕事に出かけることにした。
ある家で、返事があったので、
「ええっと、〇〇さんはの家はこの辺で?」
「なにを?」
「いえ、その、△△さんは……」
と、しどろもどろで逃げ出した。
次の家では、
主人が2階にいるのも気づかず、
食卓にあったお菓子を盗み食いしていたら、
見つかってしまい、
「〇〇さんの家はこの辺りですか?」と、言うと。
「オレだよ!」と、まさかの本人登場!!!
「えっ? その、もっといい男の○○さんは?」
「なにを?」
「いえ、よろしくと申しておりました。」
「誰が?」
「えっと、私がです。」
「何言ってんだ!この野郎ッ!!!」と、
……あわてて逃げ出す。
遠くまで逃げて来たA
「あんな、適当につけて○○って名前が、
本当にいるとは思わなかった。」 と、
胸をなで下ろしながらたどり着いたのが、
長屋のBの家。
Bの家は、
畳はすり切れ、柱はボロボロ。
転がっているのは、汚い工具が数本あるだけ。
しかたなく、工具を懐に入れ、
小腹が空いたので、台所にあるご飯をいただいていたところ、
Bが帰ってきた!!!
Aは、あわてて押し入れに避難
Bは、台所のご飯が食い散らされているのを見て、
「ははあ、泥棒か」
と見当をつけるが、
「そうだ、泥棒を言い訳に家賃を待ってもらおう!」
と、大家を呼びに行った。
話を聞いた大家は、
「それじゃしかたがねえ。待ってやろう。」
と、そこまでは良かったが、
「泥棒が入ったのなら、
盗難届けを出さなくてはならない。」
と、何を盗まれたか?をいちいち聞かれるので、
Bは、はたと困った。
苦し紛れに、Bは、
「布団をやられた!」
と、嘘をつくと、
大家「どんな布団だ? 表の布地はなんだ?」
B「大家さんとこに干してあるやつと同じで。」
大家「あれは唐草だ。裏は?」
B「行きどまりです。」
大家 「何言ってんだ!布団の裏だよ。」
B 「大家さんのは?」
大家 「うちのは、丈夫であったけえから、花色木綿だ!」
B 「じゃあ、うちのもそれです。
あと、 着物や家具や食器も、みんな盗まれていて、
みんな裏が花色木綿です。」
大家 「あきれて話しにならねえ。あとは?」
B 「あとは、雑誌も。裏は花色木綿」
このやりとりを聞いていた泥棒A
我慢できずに押入れから飛び出した!!!
A 「さっきから聞いてりゃ、
ばかばかしい。笑わせるな!!!」
B「おやっ、そんなとこから、飛び出して来て。
さては、てめえは泥棒だな?」
A「この家には、なにも盗めるものなんてないぞ!!!」
B「何を偉そうに!泥棒のくせに。警察に突き出してやる!!!」
警察に突き出すと言われ、我に帰ったA
あわてて、
「えー、どうも申し訳ござんせん。
自分は、失業しておりまして、家には、お腹を空かせた三人の子供が……
これも貧しさからのほんの出来心で……」
と、哀れっぽく持ちかけた。
大家は、 「何を言ってるんだ。泥棒には変わりないだろうっ!!!
B、てめえもてめえだ!!!」
と、Bにお鉢が回ってきた!!!
大家「おいB、何も盗ってねえそうじゃねえか。
どうしてあんな、うそばかり並べたんだ?」
B「これもほんの出来心でございます。」
呆れた大家は、泥棒Aに、
「お前もそんなところから飛び出して来て、
どこから入って来たんだ!」と。
A「はぁ、裏からです。」
大家「裏ってどこのだ?」
A「裏は花色木綿」