残業はなくならないのか? 残業について本気で考えてみよう!

残業の問題点

残業や長時間労働は昔からあった問題だ。

なぜ今、これほど注目を集めているのだろうか。

    

その背景には、少子高齢化がある。

    

高齢化した社会を支えていくためには働き手を増やさなければならないが、

「長時間労働」がその障壁になっているのだ。

     

長時間労働の慣習をなくさない限り、

長時間労働が可能な人しか働くことができない。

   

つまり、共働き夫婦、外国人、高齢者などの

「長時間労働ができない人」が働けなくなってしまう。

    

働き手不足の日本社会を運営していくためには、

長時間労働が当たり前という風潮をなくし、

一人ひとりのニーズにあった働き方を選べるようにしなければならない。

   

長時間労働の弊害は、労働力が不足することだけではない。

過労死や労働生産性の低さなどといった課題とも密接に結びついている。

   

残業は、今すぐ改善に着手すべき問題だ、といえるだろう。

    

残業のリスク

長時間労働は、働く人にとって2つのリスクがある。

第1に、「健康リスク」である。

少子高齢化が進む日本では、

働き手を確保するため、老後も働き続ける必要がある。

長く働き続けるには心身ともに健康でなければならないが、

長時間労働によって健康やメンタルを損なう可能性がある。

「長期間」働き続けるためには、「長時間」働き続けないことが重要だ。

         

第2に、「学びのリスク」である。

現代においては、

ビジネスがどんどん変化していくため、

一度身につけたスキルや経験もすぐに使えなくなってしまう。

だから、別の組織に移っても通用する人材になるためには、

常に新しいことを学び続けなければならない。

長時間労働をしていては、

新たな知識を学んだり、学び直したりする時間が持てないままになってしまうだろう。

       

残業による企業リスク

社員に長時間労働を強いることは、企業経営にもリスクをもたらす。

1つめは「採用に関わるリスク」である。

2030年、日本には644万人もの働き手が足りなくなってしまうと言われている。

しかも、外国人やグローバルに働ける人材、

ワーク・ライフ・バランスを重視する若年層は、

長時間労働を敬遠する傾向にある。

SNSなどによって企業の内情が可視化される時代において、

長時間労働を強いる企業が採用に苦労するであろうことは想像に難くない。

      

2つめは「人材育成・早期離職のリスク」である。

新入社員に対する意識調査では、

75.9パーセントが「残業が少なく自分の時間を持てる職場」

を希望していることがわかっている。

労働環境を改善しなければ、

数百万円かけて採用した人材もすぐに離職してしまうだろう。

    

3つめは「サービス開発・イノベーションに関わるリスク」である。

企業が生きていくためにはイノベーションが不可欠だが、

残業をしたからといってイノベーションが生み出せるわけではない。

イノベーションを生むのは、異質な出来事や多様な人々との議論だ。

長時間労働によって会社にいる時間が長くなると、

こうした体験をするチャンスが減ってしまう。

   

4つめは「労務管理・コンプライアンスに関するリスク」である。

厚生労働省は、労働基準法違反の取り締まりを厳しくする傾向にある。

長時間労働を放置する企業は、行政や社会からの制裁を受けるリスクが高い。

       

残業のメカニズム

日本で残業文化が根付いた背景

日本で残業文化が根付いた背景には、

日本の職場における「時間の無限性」と「仕事の無限性」がある。

     

「時間の無限性」の原因は、法規制の実効性の乏しさにある。

労働基準法では、労働時間の上限は1日8時間、週に40時間と定められている。

だが協定を結びさえすれば、法定時間外労働と休日労働が認められる。

一方、ヨーロッパでは、

超過残業には法的ペナルティが科されることになっている。

    

「仕事の無限性」の原因は、「仕事の相互依存性」にある。

これは、個人の仕事の範囲がはっきりしておらず、

責任範囲が不明瞭になっているということである。

だから、自分の仕事が終わっても、他の誰かが終わっていなければ帰りづらい。

他の人の仕事を手伝ったり、

若手のフォローアップを行ったりすることが求められてしまう。

      

日本の職場では、

この2つが負の相乗効果を起こして残業を促進してしまっている。

    

残業に「幸福」を感じる人たち

長時間労働に「幸福感」を抱き、残業を続けてしまう人がいる。

   

言わば、「残業麻痺」である。

  

この残業麻痺には、2つの要因がある。

まず、「組織の要因

一致団結して目標に向かったり、

手が空いたら他のメンバーの仕事を手伝おうとしたりする、

雰囲気が組織の一体感を増している。

また、終身雇用への期待も幸福感を高めていることもわかっている。

    

次に、「キャリアの要因」だ。

「本気で努力しさえすればほとんどの願いは叶う」

「たいていの仕事は1人で残業して進めたほうが効率的だ」という

「個人の有能感」と、

「会社で現職以上に昇進するチャンスがある」

「この会社にずっと勤めていたい」という

「出世見込み」が残業の幸福感に影響を及ぼしている。

     

また、残業麻痺状態にある人は、

自分の成長のために残業していると感じる割合が高いという。

    

具体的には、残業麻痺していない人に対して4.2倍だ。

   

しかし、この成長実感は、

果たして本質的な成長につながっているのだろうか。

   

大人の学びには、

(1)少し難しい仕事への背伸び、

(2)過去の行動の振り返り、

(3)信頼できる他者からのフィードバック

という「3つの原理」が必要とされる。

しかし、調査によると、

長時間労働をしている人は、

「振り返りができない」

「他者からのフィードバックがない」状況にあり、

本人が実感しているほど成長にはつながっていないことがわかっている。

    

残業は「集中」し、「感染」し、「遺伝」する

なぜ残業が発生するのか。

   

そのカギは「集中」「感染」「遺伝」にある。

    

まず「集中」だ。

仕事は、仕事のできる人に集中する。

仕事のできる人は、「残業があるのは自分自身のスキル不足のせいだ」と考え、

仕事の効率を高めようと努力する。

努力の甲斐あって残業時間が減ってくると、

さらに多くの仕事を任せられるようになり、

再び残業することになってしまう。

この繰り返しだ。

     

次が「感染」だ。

調査によると、

残業への影響度が一番高い要因は、

「周りの人がまだ働いていると帰りにくい雰囲気」だった。

その他にも、

「休憩を惜しんで作業を進める雰囲気」

「始業時間よりも前の出社が奨励されている」など、

明文化されていないがみんなが従っている暗黙の了解によって、

残業せざるをえなくなっている。

これが残業の感染だ。

     

最後に「遺伝」だ。

若い頃に長時間残業をしていた人が上司になると、

その部下の残業時間が長くなる傾向にある。

長時間労働の雇用慣行は、

前の世代の上司から現在の部下へと受け継がれていく。

    

以上からわかるように、

残業は個人の能力不足によって

引き起こされているものではない。

職場の雰囲気や人間関係の中で生まれている。

      

働き方改革のカギ

残業施策の落とし穴

企業の残業削減施策は、なぜ失敗してしまうのか。

    

その落とし穴は3つある。

    

1つ目に、「施策のコピペ」の落とし穴だ。

多くの企業は、

他社の成功事例をコピペしようとする。

その施策が自社の構造に合っているか、

自社の課題解決につながるのかは検討されないままだ。

現場のニーズと懸け離れた施策は、すぐに形骸化してしまう。

     

2つ目に、「鶴の一声」の落とし穴である。

たしかに、残業削減には、経営者のコミットメントが必要だ。

しかし、施策を組織全体に根付かせるためには、

現場のコミットメントも欠かせない。

トップダウンの形で強制的に施策を実行してしまえば、

現場はトップに「忖度」し、

残業時間が減ったように見せかけてしまうかもしれない。

       

3つ目に、「御触書モデル」の落とし穴である。

いくら良い施策でも、社員全員に伝わらなければ意味がない。

調査結果によると、

施策の約2割が、

イントラネットや一斉送信メールでしか告知されていないという。

御触書のように一方的に伝えるのではなく、

きちんと伝わったかどうかを注視しなければならない。

     

残業削減施策のポイント

では、どうすれば残業時間削減を実現できるのか。

    

その方法は2つに分けられる。

    

「外科手術」的な方法と「漢方治療」的な方法だ。

     

「外科手術」としては、

ノー残業デーの実施や残業時間の上限設定、

残業の原則禁止や事前承認制の導入、

勤怠管理の厳格化などが挙げられる。

   

これらの施策がうまくいかないと、

残業がブラックボックス化してしまったり、

組織コンディションが悪化したりするが、効果が見えやすいのも確かだ。

     

では、どうすれば「外科手術」を成功させられるか。

    

そのポイントは4つある。

    

第1に、残業時間を「見える化」する。

労務管理システムやタイムカードの導入、入退室管理などで、

雇用者や上司が直接確認するか、客観的に管理する。

匿名のアンケートやヒアリングで「見えない残業」を把握するのもよい。

   

第2に、コミットメントを高める。

いつまでにどの程度の成果を出すかを決め、施策を選び、周知する。

施策の重要性を地道に訴え続け、会社が本気であることを伝えよう。

第3に、「死の谷」を乗り越える。

施策の効果は、導入後1カ月で最も薄まり、

その後上昇することがわかっている。

この「1カ月」の谷を越えて施策を継続させることが重要だ。

     

第4に、効果を「見える化」して残業代を「還元」する。

施策の見返りとして、結果を見せること、

そして残業代を還元することで、モチベーションを継続させることができる。

特に残業代の還元は有効だ。

それまで払っていた残業代を削減できるため、

新たな実施費用がかからない点にも注目したい。

     

最後に、「漢方治療」としては、

そもそも「漢方」が、人間の体も自然の一部と考え、

体の一部分にだけスポットを当てるのではなく、

体全体の状態のバランスを総合的に見直す特徴があり、

これを会社に当てはめて考えるのである。

  

すなわち、残業時間が多い部署にフォーカスを当てるのではなく、

会社全体として、社員が働きやすい環境、土壌を作っていくのである。

  

これは、外科治療的施策のように、特定のルールや手法を使うのではなく、

慣習であったり、今までの仕事に対する印象であったり、

姿勢を変える必要がある。

   

これは、トップや上司が意識して行うことは、

なかなか難しいのではないだろうか。

  

まずは、若手の会社に対する印象や疑問に思う慣習などを丁寧に聞き取り、

トップや上司が、自分の思いや経験でフィルターをかけないような、

仕組みを作りながら、若手の意見を取り入れるようにしなければならないだろう。

   

  

残業については、一筋縄では解消できないだろうが、

徐々にでも変えていかなければならないだろう。

残業が嫌なら、フリーランスにでもなればいいじゃないでは、

悲しすぎるから…

      

最新情報をチェックしよう!
広告