裁判って何しているの?
法廷でお互いが「異議あり!」って言い合っているの?
などと、裁判についてイマイチ何をやっているか疑問な部分がある。
なので、民事訴訟を例に、
ザックリ何をやっているか勉強してみようと思う。
なお、手続論についてではない。
まずは、こんな案件があったとして
Xさんの主張
私は、去年の1月10日に、Yさんから、
「家計が苦しいので、少しお金を工面してもらえないだろうか。」
と懇願され、
今年の1月10日までに返すとの約束で、
Yさんに30万円を貸しました。
ところが、Yさんは、今年の2月になっても、お金を返してくれません。
返してくれるように催促すると、
Yさんは、「あれは返す必要のないお金だ。」
といって、いっこうに返そうとする気配はありません。
なんとか返してもらいたいので、裁判するしかないと思っています。
Yさんの主張
たしかに、Xさんから30万円を受け取りましたが、
これは、私の家計が苦しいのを見かねて、
Xさんがくれたものです。
Xさんも、私の家計が火の車であることを十分知っていましたので、
渡した30万円が返ってくるとは思っていないはずです。
なぜ、急に「返せ」といってきたかというと、
昨年の暮れに、飲みの席でXさんと仕事のことで口論となり、
その腹いせに、返還を求めてきたのだと思います。
裁判を起こすには
裁判を起こすには、
裁判所に訴えの提起をする必要があります。
訴えの提起には、訴状を裁判所に提出することになります。
訴状には、
当事者の名前や住所などもありますが、
重要なものとして、
請求の趣旨を記載するように、となっています。
請求の趣旨とは、
訴訟における原告の主張の結論となる部分です。
本件で言うと、
Yさんは、Xさんに対し、30万円を支払え。
ということになる。
ざっくり、こうやって訴状を書いて、裁判所に提出して、
裁判起こすことになる。
訴訟物とは?
ざっくり請求の趣旨を書いたが、
請求の趣旨だけでは足りない。
まず、原告が被告に対して、請求をするからには、
どのような請求権があるかを明らかにしなくてはならない。
訴訟においての請求は、
一定の権利や法律関係の存否の主張の形式をとります。
その内容である一定の権利や法律関係を訴訟物と言います。
本件では、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権が訴訟物となります。
なお、請求は、請求の趣旨と請求原因によって特定されることになります。
では、どうやってお互いが争っていくんだろう。
民事訴訟において、
裁判所は、原告が訴訟物として主張する
一定の権利、法律関係の存否について判断することになる。
しかし、権利や法律関係は、観念的な存在で、
直接認識できるようなものではない。
そこで、このような観念的な存在である権利や法律関係を
法律によって認識しようとするのである。
例えば、法律上、
ある「事実A」が存在したときに、ある「権利B」が生じる、
と定められていた場合、
裁判所は、この法律を使い、
「事実A」が認識できた場合は、
「権利B」が発生したと判断することになる。
そして、この「事実A」のことを要件事実という。
要件事実は、このような一定の法律効果(上の例で言うと、「権利B」)
を発生させる要件(「事実A」)に該当する具体的事実なのである。
裁判では、この要件事実をお互いが主張し合うということになる。
要件事実について、証明できなかったら?
法律効果(上の例で言うと、「権利B」)を発生させるためには、
要件事実(「事実A」)を主張しなくてはいけないのだが、
必ずしも、要件事実について、欠けることなく存在することを
証明するのは難しい。
一部は存在することを証明できたとしても、
一部では、法律効果は発生しない。
証明できなければ、法律効果は発生しないのである。
この、要件事実の証明ができなかった場合
すなわち、 要件事実の存在が真偽不明だった場合の、
法律効果が発生しないことの不利益を
「立証責任」
という。
立証責任って、どうやって決まるの?
立証責任は、法律の構成要件を前提として、
事実的態様とその立証の難易度などを考慮して、
分配されています。
まぁ、ざっくりいうと、法律効果が発生した場合に有利になる人に
立証責任があるということです。
例えば、
権利の発生(売買の成立、消費貸借契約の成立など)
については、
これを主張する者に、立証責任があります。
権利の発生により、法律効果が発生し、法律効果の
恩恵を受けるからです。
権利の発生を障害(契約の無効など)、
消滅(債権の弁済など)については、
権利の発生を否定、阻止する者に立証責任があります。
権利が発生しないことにより、恩恵を受けるからです。
じゃあ、本件はどうなるでしょうか?
まず、要件事実を確認しなくてはいけない。
今回の金銭の貸し借りは、消費貸借契約に当たる。
消費貸借契約は、民法第587条に規定がある。
「消費貸借契約は、当事者の一方が種類、品質及び数量の
同じ物をもって返還をすることを約して
相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、
その効力を生ずる。」としている。
そうすると、要件事実としては、
①金銭の返還の合意をしたこと
②金銭を交付したこと
が必要となる。
ただ、貸借型の契約については、すぐにお金を返さないといけない
とすると、そもそも契約の意味がなくなってしまう。
なので、貸借型の契約は、観念的に一定期間、貸すことが前提となる。
したがって、貸借型の契約については、条文上ないが、
③ 返済時期、すなわち弁済期の合意
が要件事実となる。
そして、この要件事実により、貸金の債権が発生すことになり、
Xさんの債権という法律効果が発生するので、
この要件事実の立証責任は、Xさんということになる。
Xさんの主張によれば、
「今年の1月10日までに」これは、③に該当
「返すとの約束で、」これは、①に該当
「Yさんに30万円を貸しました。」これは、②に該当
なので、一応、要件事実は主張できています。
あとは、この要件事実が立証できるかです。
例えば、「返すとの約束で、」とXさんは主張していますが、
契約書でもあればいいですが、もし口約束であれば、
立証が難しそうですね。
これに対して、Yさんは、本件のお金は、
「Xさんがくれたものです。」と言っている。
これについて、Yさんは、立証する必要があるのだろうか?
結論から言うと、答えはNOだ!
「Xさんがくれたものです。」と言う主張は、
Xさんの主張の①、②を否定するものでしかない。
あくまで、①と②の立証責任は、Xさんにあるので、
Yさんの主張は、Xさんの立証性を妨げる効果を与えるものに過ぎない。
これに対し、今回では出てこないが、
仮に、Yさんが、「Xさんから、お金を借りたのは確かだが、
そのお金はもう返した。」と言う主張をするのなら、
この主張の立証責任は、Yさんということになる。
なぜなら、「もうすでに返した」という主張は、
貸金の債権の発生について、消滅したという効果を発生させる
ものだからである。
このようにして、裁判は日々行われていく。